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■『戦旗』1651号(2月5日)4-5面 介護労働者を組織しよう 土肥耕作 階級的労働運動の再建に向けて、産業別(業種別)労働組合の組織化、地域一般労働組合の組織化、そしてその結合が求められている。ここでは、業種別運動で注目も集め、全国的な闘いが進められている介護労働者を取り巻く状況について報告する。 介護労働者の組織化は北海道から九州まで全国各地の地域合同労組や業種別労働組合で進められている。介護戦線の闘いは組合敵視やハラスメントとの闘いの連続だ。職場は慢性的な人手不足で、介護労働の精神や技術は伝承されず、利用者に良いサービスを提供しようという機運はしぼみ、共同ではなく仕事の押し付け合いが横行した。そうした中で多くの心ある労働者が職場を去り、利用者へのサービスや仲間の助け合いよりも経営にへつらうことを優先するものが中堅的な労働者層を占めやすくなっていった。こうして労働者はいじめられ、精神的に追い詰められて、労働組合にたどり着いた。 ●1 極端な人手不足がつくる介護地獄絵図 介護の労働運動は荒れ果てた職場の中でいじめや労使紛争などに振り回されているわけだが、これは個別のダメな上司や企業が起こしている特殊な問題だろうか。残念ながらそうではない。 介護現場が荒れている原因には極端な労働者不足がある。二〇二二年三月の有効求人倍率は、全職業の平均で1・13であるにもかかわらず、介護サービス業では三倍以上の3・39となっている。一貫して平均よりも高いうえに、近年はむしろ格差が拡大している。このデータで驚いていてはいけない。ここに出ている介護サービス業は介護産業の全体、比較的人員確保ができている大規模な施設なども含んだ数字だ。最も深刻なホームヘルプサービスでは次のようになる。 今度の比較対象は同じ介護業界同士、施設職員とホームヘルパーだ。最新の二〇二二年の年平均で、施設職員の有効求人倍率3・79に対し、ホームヘルパーは15・53倍。一人のヘルパーに15・5社が群がるという地獄絵図である。しかも、この数字は全国平均。大都市部では二〇~四〇倍という驚異の数字をたたき出しているという。この結果、業界では人事倒産が拡大している。東京商工リサーチ調べの訪問介護事業倒産件数は、右肩上がりで増えていっている(グラフ)。しかも、倒産件数には表れないが、部門閉鎖、事業閉鎖など法人自体はつぶれていなくても供給減少がこの後ろには隠れている。 利用者はもはやサービスを選ぶことができない。処遇が劣悪でも選択肢がなければ我慢するしかない。地方ではそもそも選べるサービス自体がない。逆に事業者側は効率よく稼げる利用者を選び放題だ。本来、法律上は事業者が正当な理由なく利用者を選別することは許されていないが、「人員不足」は正当理由に該当する。つまり、今の状態では可能になってしまう。 その結果、認知症や徘徊など対応に力量が問われる割に報酬が少ない利用者はサービスから切り捨てられる。特に営利企業大手で顕著な現象で、こうした人たちのサービスは良心的な中小か、社会福祉協議会など半公共的な事業体が担っている。こうして営利企業、大企業は効率よく稼ぎ、中小などの財務は悪化する。中小の撤退が進み、状況はますます悪化する。 このような環境下では、利用者の生活の質の向上や労働環境に配慮する事業者や労働者は退場に追い込まれ、効率と利益を追求するものばかりがのさばってしまう。横行するハラスメントの背景にはこうした介護産業の状況があるのだ。 ●2 四半世紀にわたる低報酬・低賃金政策 二〇〇〇年に介護保険が導入された時、スローガンは「介護の社会化」だった。これは家庭で女性に押し付けられてきた介護という再生産活動を社会全体で担おうというものだ。もちろん性別役割分業の押し付けからの解放を求める女性たちとその女性たちを非正規労働者として活用したい資本の間には大きな開きはあったのだが。しかし、その手法として保険制度が用いられ、事業は民間企業に担わせるという制度設計が、今日の困難をもたらした。保険制度はサービスの拡大に伴い際限なく保険料の増大をもたらす。財務省・厚生労働省はこれを抑えることを口実に低報酬政策(賃金が上昇しない)、サービスの切り捨て、利用者自己負担の拡大を行ってきた。 前回の報酬改定時にまとめられた二〇二〇年一二月一七日付のシルバー産業新聞によれば、減額改定三回、増額改定四回に見えるが、率で見れば減額の方が多い。しかも、増額改定時も介護労働者の待遇改善が問題になっていて処遇改善の特別な補助金や加算(今三種類もある。とてもめんどくさい)が創設された時に限定されており、本体報酬は一貫して下げられるか抑えられてきたのだ。その結果、介護労働者の給与は全産業平均から一貫して低い状況に置かれている。 二〇二三年一二月三日朝日新聞によれば、かつて一〇万円の差があった賃金格差は二〇二二年の時点で約七万円まで縮まったが、これは新型コロナ危機で全産業平均の方が下がってしまったためである。グラフは一応右側が上がっているが、この間の物価上昇率や最低賃金の上昇を考えたら、不十分だ。 さらに、まだ統計が出ていない二〇二三年の物価上昇に伴う久々の春闘賃上げ(それ自体不十分なものであったが)によって、また差が開いてしまった。この結果、介護業界では比較的労働者不足の影響が小さかった施設系でも離職が入職を上回る事態となり、二〇二三年は施設協会など保守系の団体も含めて介護報酬増額改定の大合唱となった。その結果、最新の二〇二四年報酬改定では1・59%の増額改定となった。これは二〇二三年春闘の賃金上昇の差額を埋めるものだという。 しかし、待ってほしい。報酬改定は三年に一回。二〇二四年春闘や二〇二五年春闘の分はどうするつもりなのか。 ●3 人間の解放、共産主義実現をめざそう 公的介護政策の破綻は新自由主義の下では高齢者や障害者の人権は守れないのだということ、そして介護労働者の待遇改善は実現しないのだということを示している。そもそも、資本主義の世界の中で資本に労働を提供できない、不十分であるからこそ排除されているのが高齢者であり、障害者である。高齢者や障害者を含む人間が生きることを中心に置いた社会のルール変更が必要だ。社会的に生み出された富を資本家の手に独占させるのではなく、再生産に投じられる残余のものを生きることの保障、持続可能な社会の建設、競争ではなく団結と連帯の社会をつくることに振り向けなければならない。地球を沸騰させるほど過剰に拡大した生産力は、既にそれを可能にしているはずだ。日々の闘いを貫きつつ、社会変革の展望と希望を拡げていかなければならない。 ●4 二〇二四年も攻防が続く 二〇二三年の介護戦線の闘いは他の戦線と同様に防衛費増額との闘いでもあった。防衛費四三兆円との関係で年頭は介護報酬減額改定、自己負担二割の拡大、要介護1、2の介護保険からの切り離しなどの負担拡大、サービス切り下げが狙われていた。 しかし、二〇二三年の闘いはこの策動の多くを跳ね返した。前述のとおり増額改定1・68%という数字は現在の介護産業の危機を突破するには全く不十分なものだが、闘い無くしては勝ち取れなかったという事は確認しておかなければならない。介護以外の諸戦線の闘いもあり、防衛増税、民生切り捨ての岸田政権の当初方針は貫徹できずに中途半端な状態となって年を越えた。攻防は続いている。 岸田政権や維新のような補完勢力の打倒無くして、人間が生きることを肯定する社会の建設は実現しえない。ともに闘おう。 |
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